ボロアパートの一日







ガタンガタン…と電車が過ぎていった。

ぼろアパートの2階、電車の音にぎしぎしと揺れる家屋が怖い。

いつか電車が通り過ぎた後に崩壊するのでは、と噂されている。

築数十年の木造モルタル2階建て、だけど暖かい下町のアパート。



浩太は貧乏学生だ。一人暮らし、節約生活を余儀なくされている。

元来勉強は好きなほうで、国立大に入るため努力したのだ。

ようやく合格した喜びも束の間、一人放り出されてみれば苦しいことは山積み。

だけれど自立した、と思うと少しだけくすぐったい気持ちにもなる。

結局どんなにぼろかろうと、ここは自分だけの城だった。



今日は大学もバイトも休みで、一人でのんびりしていた。

ぐぅぐぅと寝ていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。


「はいは〜い」


中から返答しても外には聞こえる。

適当に返事をしながら目を擦り、ぼさぼさの頭を掻きドアを開ける。

するとそこには見知らぬ顔の男がいた。


「こんにちは、初めまして」

「初めまして、すいませんこんな格好で」

「いえいえ、突然お邪魔したのが悪いんです

 あの、今日隣に引っ越して来た、浜中三郎と言います」

「三郎ですか?渋い名前ですね」

「よく言われます、今日は一応挨拶周りということで…

 ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

「はい、えっと、こちらこそよろしくお願いします」

 まだ少しぼやっとした頭を何とか振り起し頭を下げた。






数日たったが、別段悪い人でもなさそうだ。

結構気さくな人で、話してみると面白い。しかも同い年だ。

友人ができたような気がして嬉しかった。











なんとなく気分も良くなっていた、そんなある日のこと。

また今日は用事もなくぼぉっと寝転んでいた。

彼女もいなければ、別段昼間から遊びたい友人もいない。

というより、いつも顔を見ているのにたまの休日くらいゆっくりしたかった。



「……」


突然何かの声がした。ん?と首を傾げ、テレビを消し耳を澄ませる。



「…にゃぁ」



すると背後から猫の声がして、ぱっと振り向く。

そこには三吉という猫がいた。三吉は三郎の飼っている黒猫だ。


「どうした、三チャン 飯が欲しいか」


すると三吉はまた一声泣いて、押し入れに入ってしまった。

彼はこれはまたどうしたことか、と困り果てた。



とりあえず三郎を呼ぼうか、と走り出し始めた足を止める。

まだ少し開いているふすまの間から中が見えた。



一瞬驚いたものの、すぐに微笑んでしまった。



小さな仔猫と母猫、そして三吉が仲良く中で寝ていたのだ。


微笑ましいその様子に、足音を抑え三郎の元へ向かおうとする。



「にゃぁ」



また一声、三吉が鳴く。ありがとさんと声が聞こえた気がした。


「ちょっと待ってろな、三ちゃん」


そう小声で話しかけると、三吉も嬉しそうな顔をしているような気がした。









ある日のボロアパートで起きた、暖かい出来事。