人はいつも誰かに恋をする
君といるときの優しくて温かい雰囲気。
他の誰でもない、君だからこそ感じられるそれ。
僕は何よりも大好きだった、陽だまりの日のような心地良さが。
空が曇れば気持ちも思わず下がる。
天気=気分とまではいかなくとも、少しは関係しているだろう。
だけど君は、雨の日は雨の音が素敵だと笑う。
曇りの日は、木々のざわめきにきゃーきゃー叫んで楽しむ。
雷の日は驚いたふりをして僕の腕を掴み、逆に驚かす。
その瞬間を、自分なりに楽しむのだ。そう言って微笑む君は、結構綺麗だった。
その日も、大学で一番大きな木の下で待ち合わせをしていた。
僕は花粉症が結構酷くて、木には近づきたくなかったから少し遠くから君の名を呼んだ。
「朱美、もう行くぞ」
「はぁい、ちょっと待ってね」
何をしているのか、と目を凝らせば君は木にリボンを結んでいるらしい。
黄色のリボンをきゅっと結び、それに向い一人で頷いた。
「今度の流行はおまじないか?」
「うん、そうなの。」
彼女の彼氏は年上で、今海外に赴任中。
毎日のように電話だけはかかさないの、と彼女は照れくさそうに言った。
そんな彼女の彼氏は、僕の兄さん。
海外は日本よりも危険だ、と彼女は思っている。
兄さんが無事に帰ってきますように、事件に巻き込まれませんように。
会えない分、彼女はやたらと占いやおまじないをしたがる。
子供っぽいかな、って笑うから、とりあえず微笑み返しておいた。
彼女のことが異性としてすきか、と言われれば曖昧にしか答えられない。
後数ヶ月したら、兄さんが帰ってくる。
きっと、彼女はいつもより綺麗な笑顔を見せるだろう。
そんな表情が一番好きだから。
とりあえず、気持ちには封をすることにしたんだ。
(でもいつか、思いあえる誰かに出会いたい)