温もりなんて必要なかった、ただ傍にいてくれるだけで










"そんなふうにして二度目の別れを経験したのは、昨日のことだった。"





こんなフレーズから始まった千切れた小説を、道端で拾ってしまったある日のこと。







『3度目の別れ』







道端に落ちていた、一冊の小説。




題名も表紙もなく、ただ真っ白な紙の次に「そんなふうに」と続いていた。






普段は道に落ちているものなんて拾いはしない。







だけど直感的に私は何かを感じた。







この本を、拾わなくてはいけないのだと。









"そんなふうにして二度目の別れを経験したのは、昨日のことだった。

彼女は怒った顔をして僕に咳き込むように言ったことだけを覚えている。

「貴方のせいよ」と。

その後も今まで聴いたこともないような金切り声をあげ、暴言を吐く彼女。

僕はとにかく切なくなった。別れへの怒りも悲しみも忘れて。

とにかく彼女のその声を聞き取ることのできない、自分が切ないのだ。

彼女へと意識を移せない、自分が。

彼女へこの想いを伝えたいのだが、上手く言葉がでない。

なんと伝えれば良いのだろうか。考えている間にゆっくりと彼女の口が閉じていく。"








彼は何かを後悔しているようだ。

私はその文章を読みながら、ふいに懐かしさを感じた。




気がつくと瞳からは涙が零れて頬を伝っていた。



拭っても拭っても止まらないそれに困って、私はあの人の元へと急いだ。








「センセイ、涙が止まらないの」


「どうしたんだい」


「わからないわ、だけどコレを読んだら胸が苦しくなってしまったの」


そう言って題名のない小説をセンセイに渡した。



最初のページを目にした瞬間、センセイは見たこともない不思議な表情をした。


悲しみとも怒りとも言えない、それだけでは表現しきれない表情。



そうだ、彼の言葉がしっくりくる。






切ないのだ。









「センセイ、どうしたの」


「いや、上手く説明はできないんだ…なぁシュリ、最後まで読んだら感想を聞かせてくれ」


そう言うと、センセイは奥の部屋へと入っていた。


気のせいだろうか、涙を滲ませながら…。








"彼女は止まってしまった!なんていうことだ。

原因もわからない、彼女は「貴方のせいだ」と叫ぶばかりだった。

その時わかったのことはただ一つ。

もう彼女が壊れてしまったのだということだけ。


**

僕らの別れとは彼女の完全なる停止であった。

あの言葉の意味も分からずに、ひたすら動かなくなった彼女を抱きしめる。

まだ温かいかって聞かれたら、笑ってしまうよ。





だって彼女には元から体温などなかったのだから。"








心臓の脈が速くなっていくのを感じる。

いや、本当に感じているのかさえわからなくなってきた。

「私は…」

口にしかけて、言葉を止めた。

最後まで、この話を読むために。




"彼女は、僕の死んでしまった恋人だ。



愛しすぎて、彼女の死を僕は受け入れることができなかった。

人間の弱さを知る。僕はどうやっても彼女と共にしか生きられない。


たとえ彼女が…"



















「…センセイ……ううん、ジオ」

「思い出したんだね…なんであの本を拾ったんだい」

「わからないわ、だけど何かを感じてしまったの」

「そうか…本当はもう、君と別れたくなんかないんだ…っ」

「だけど、分かっているんでしょう。もう私たちは別れなければいけないの…」

「……」

「…今度は静かな別れだわ…ねぇ、この原因を教えてあげる」

「……なんだい」





「私…いいえ、"彼女"も貴方を愛しすぎてしまったからよ」







その一言を最後に、私も、止まった。















"例え彼女が…ロボットになってしまっても、僕は愛することを止められなかった。

だけれど愛を伝えてしまったとき、彼女と二度目の別れを経験したのだ。

もう愛を伝えないから、ただ傍にいてほしい…"












四度目の出逢いと別れが訪れるのかは誰も知らない。






それでも彼が彼女を、彼女が彼を愛さずにいることなどできないから。





出逢えば必ず、2人に別れは訪れる。














輪廻、廻り続ける運命。 アイシテル、さよなら

















end...?