君は俺を醜くさせる。 感じ続けた劣等感に、俺の心は黒くなるばかりだ。 だけど、尊敬していないわけじゃないから。 サロメみたいな狂愛を君に向けられたら良かったのにね。 『僕は君になりたかった』 俺は君になりたかった。 いつだって中心にいて、上手く全てをこなして。 俺よりも良いタイムをだす。 同じ競技をしていたら、そりゃ劣等感だって持つだろ? 隣を駆け抜けていく君に、いつだって焦りを感じて。 俺より一歩分前を走る君の背中を、誰よりも見てきたんだ。 くやしくないわけが、ないじゃないか。 別にLoveではない、Likeの感情だ。 だけど、むしろ愛するくらい彼を尊敬したかった。 中途半端な尊敬は、俺の中で膨れ上がる。 この感情を上手く言葉で表すことはできない。 けれど、君が憎くて憎くて、それでも君の走る姿は眩しかった。 「海斗、競争しようぜ」 「あぁ?さっき走ったばかりだろ?別なやつに頼めよ」 「駄目だ、海斗じゃなきゃ。練習相手にならん」 「…わかったよ、ちょっと待て」 スタートラインに並んだ瞬間はしる緊張感と興奮。 体中から噴出す汗のように、溢れ出るものがある。 「行くぞ〜用意…スタート!」 合図と共に走り始める。 スタートダッシュは俺のほうが得意だ。 だんだんと肩が並ぶ。 横顔が見える。 背中が見えそうになったところで、俺の血が熱くなった。 100メートルラインを切ったとき、いつだって望んでいたのは君の横顔だった。 だけど今日も見えるのは、君の綺麗なフォームを表す真っ直ぐとした背中。 「やっぱ海斗にしか頼めないな」 俺の心を見透かしたように言う、君が嫌いだよ。 「お前は俺の1番のライバルだから」 「そのうち、絶対抜かすからな?」 君に俺の背を、見させてやるよ。 (負けてばっかりでなんかいてやらないよ。 いつか君の背ではなくだだっ広いグラウンドを見つめるんだ、必ずさ)