夕焼けに染まる背中







「夕貴ぃ、何書いてんだよ」

そう言って夕貴は修吾に肩を叩かれた。

「空良に頼まれたんだよ、七夕の日はちゃんと単ざく飾ってね、また会えるように、って」

「空良ってあの5年前に会ったっていう子だろ、なんでまだその子との約束守ってるんだよ…」

「あぁ…でも待っている間、少しでもあいつの願いは叶えてやりたいんだ…変な話だよな」



5歳の出会いから5年間、空良は夕貴の前に姿を現さなかった。
土手の近くに住む修吾や他の友達に聞いても、空良を知る者はなかった。
彼女のことを幽霊ではないかと言う者もいた、嘘ではないかと疑う者もいた。
だが、俺はそんな言葉を信じない。他人が何を言おうと深く気にとめることもなかった。



俺の心を占めるのは、結局彼女自身のことだけ。



しかし諦めかけていた、5年後。




10歳のまた夕焼けが綺麗な日、あの土手で寝っ転がっていた俺の前に君は現れた。
前に会ったときより背が少し伸び、顔立ちもはっきりしてきていた。

「久しぶり」

「ひ…久しぶりじゃねぇよ!どこ行ってたんだ」

彼女はやっぱりふわりと微笑んで、その質問には答えなかった。しかし


「あのね、夕貴、私ね、5年に1度しかあなたに会いに来れないの」

「…なんでだ?」

「……理由はまだ言えない…だけど…」

そう言って言葉を詰まらせる空良がなんだか切なかった。

「良いよ、5年後まで待つから。その代わりちゃんと5年後には姿見せろよ、この土手に」

すると空良は泣き始めた。
そしてぽつりぽつりとありがとうと呟き、またあの切なそうな笑顔を浮かべたんだ。




夕貴がこの時予想した以上のものを、空良は抱えていた。





それを知ったのはまた5年後の15歳の日。




*




中々土手に空良は現れない。

日にちを決めたわけではないので、いつ来るかなんて分からない…
夕貴はただひたすら彼女を待って、夕日が綺麗な日は土手に倒れこんでいた。
高校に入り、また新しい友達もできた。
しかし何かが足りない気がして、いつも胸をつっかえていた。それはきっと、空良がいないから。
そんな確信を夕貴は持っていた。


秋になり少し気温が落ちて寒くなった。空の色が赤ではなく紫色になる。
いつもとは違う夕日。ふと不安になった瞬間、夕貴の足は家へと向かっていた。


何故こんなにも嫌な予感にかられているのだろうか…
考えないように、深く考えないように、と夕貴はひたすら家路を急いだ。
すると家の門の前には、知らない男が立っていた。



「市川夕貴さんですね……?」


「……ああ」




「これは空良様からの、手紙です」














(知らないということがどれ程幸せなことなのか…初めて知ったんだ)